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PFAS規制に対応できるフッ素化合物代替の高機能材料について

公開日:2025.01.10 更新日:2025.01.10

近年、世界の各国地域でPFAS(有機フッ素化合物)に対する規制が急速に進んでおり、産業界ではPFASの代替となる材料のニーズが高まっています。この記事ではPFASの代替となる材料の候補を、PFASが規制される背景と共に詳しく説明します。

PFAS規制とは

PFAS規制とは

PFAS (ピーファス)規制とは、PFASとして定義される化学物質の製造、使用、排出を制限・管理するための法的措置や基準を指します。PFASとは、人工的に作られたフッ素を多く含む有機フッ素化合物の総称です。炭素-フッ素結合(C-F)という強力な化学結合を持ち、優れた耐熱性や耐薬品性、撥水・撥油等の特性を持つことから、被覆材や樹脂材料として様々な用途に活用されています。

その一方で、PFASは環境中で分解されにくく、環境や健康に有害な影響を及ぼす可能性があるため、各国で規制の導入が進んでいます。PFAS化合物の中でも特にPFOSやPFOAなどの物質はその有害性が問題視されており、既に日本を含む多くの国で製造や使用が制限されています。その他のPFASについても各国・各機関において規制の導入や管理のあり方などが活発に議論されており、今後ますます規制が強化されると見通されていることから、産業界においてはPFAS代替品の開発が急務となっています。

PFASの代替となりうる材料

PFAS Free

しかし、すべての面でPFASと同等な代替材料を見つけることは困難です。 PFASの優れた特性のほとんどはフッ素の電気陰性度の高さやC-F結合の強さなどのフッ素自体が持つ特徴や性質に起因しており、すべての面でフッ素樹脂と同等な代替材料を見つけることは原理的に不可能と言えるからです。ですが耐熱性や耐薬品性など、特定の機能や性能のみに着目するならば代替材料を見つけられる可能性があります。

例えば、耐熱性に注目すれば、同じように高い耐熱性を持つPPSやアラミドのような非フッ素系のスーパーエンジニアリングプラスチックが候補にあげられます。また、耐薬品性に注目すればPPSの他にポリオレフィン等が候補となります。さらに特定の薬品に対する耐性のみで十分なのであれば、例えば、アルカリ環境であればビニロン(PVA)などが代替材料になる可能性があります。

撥水性は、フッ素樹脂の性能が飛びぬけていますが、条件次第では表面エネルギーが比較的小さいポリエチレンやポリプロピレンなどは使える可能性があります。また、単純な材料の置き換えではなく、孔径や密度、厚み等の製品設計を変えたり、他の材料と複合化したりすることによって材料の性能差を補完できる可能性もあります。

Table1~4に代表的なフッ素樹脂であるPTFEと、廣瀬製紙が不織布の原料として使用している材料の中からPPS、PET、PE等いくつかの代表的な樹脂との各種特性に対する比較を示します。現時点においてはこのような形で特性比較を行いつつ、最終製品に求められるスペックを満たす材料を探すことがPFASを代替する上でとても重要な取り組みとなります。

Table. 1 代表的なフッ素樹脂 性能表

ポリマー名称 化学構造 融点 (℃) 耐薬品性 絶縁性 非粘着性 耐候性 動摩擦係数
PTFE Polytetrafluoroethylene -(CF2-CF2)- 327 非常に良い 非常に良い 非常に良い 非常に良い 0.04
FEP Fluorinated ethylene propylene -(C2F4-C3F6)- 275 非常に良い 非常に良い 良い 非常に良い 0.30
PFA Perfluoroalkoxy alkane -(C2F4-C3F6O)- 310 非常に良い 非常に良い 非常に良い 非常に良い 0.20
PVDF Polyvinylidene Fluoride -(CH2-CF2)- 171 良い 良い 普通 非常に良い 0.39
ETFE Ethylene tetrafluoro ethylene -(C2H4-C2F4)- 270 良い 良い 普通 良い 0.40

出典:小川年之,フッ素樹脂の特性とコーティング剤としての現状 318-327(1983)

Table. 2 耐熱性比較表

  PTFE PPS PET PE PA6
最大連続使用温度(°C) 260 – 290 200 – 220 80 – 140 100 – 120 80 – 120
融点 (°C) 327 280 260 132 171
難燃性 (UL94) V0 V0 HB HB HB
熱伝導率 (W/m.K) 0.23 – 0.50 0.29 – 0.32 0.29 0.45 – 0.50 0.24

参考文献:Omnexusの公開記事を参考に廣瀬製紙で制作(https://omnexus.specialchem.com/)

Table. 3 耐薬品性比較表

薬品名 PTFE PPS PET PE(HDPE) PA 11/12
Acetone @ 100%, 20°C
Benzene @ 100%, 20°C
Chloroform @ 20°C × ×
Ethanol @ 96%, 20°C
Methanol @ 100%, 20°C
Phenol @ 20°C × ×
Mineral oil @ 20°C
Sodium hydroxide @ 10%, 60°C ×
Toluene @ 20°C
Xylene @ 20°C

参考文献:Omnexusの公開記事を参考に廣瀬製紙で制作(https://omnexus.specialchem.com/)

Table. 4 表面自由エネルギー・接触角比較表

ポリマー名称 表面自由エネルギー 接触角
  (dynes/cm) (degrees)
PTFE 19 120
PDMS(Silicone elastomer) 23 98
PVDF 25 80
PE 30 88
PP 30 88
PVA 37 10
PPS 38 87
PET 42 76

出典:小川年之,フッ素樹脂の特性とコーティング剤としての現状 318-327(1983), 羽田 正紀, プラスティックフィルムの表面改質 78-83(2010)

PFASが規制される理由

そもそもなぜPFASが規制対象になるかというと、それはPFASが化学的に非常に安定した化学物質であるという特徴に起因します。この安定性は材料として利用する際には利点になるのですが、自然環境中では分解が困難であり、長期間にわたる残留性や拡散性が問題視されます。毒性については未解明の部分も多いのですが、一部のPFASでは発がん性が疑われる評価結果も出ていることから、環境や人体に有害な影響を及ぼす可能性が懸念されています。こうした背景から、各国でPFASの規制が導入され、さらに強化されつつあります。こうした規制には、製品中のPFASの使用制限、排出基準の設定、そして特定のPFASについては完全禁止まで含まれることがあります。

PFASが化学的に安定である理由は、以下の特徴によります。

①C-F結合の強さ

C-F結合の強さ

PFASの化学構造には、多くの炭素-フッ素結合(C-F結合)が含まれています。C-F結合は化学結合の中で最も強力な結合の一つであり、熱的・化学的な分解に非常に強い耐性を持ちます。

②フッ素の高い電気陰性度

フッ素は元素の中で最も電気陰性度が高いため、共有結合する際に電子を強く引き寄せます。これにより、PASFのC-F結合等は非常に安定するとともに、他の化学物質との反応性が低くなり、耐薬品性や難分解性につながります。

③疎水性と疎油性

PFASはフッ素原子の多さから疎水性だけでなく疎油性も持っているため、水や油などの極性のある多くの化合物と相互作用しにくく、環境中での分解が困難になります。

④分子の非極性・低反応性

PFASは通常、長鎖のフルオロアルキル基を持ち、分子全体が非極性となっています。このため反応性が低く、光化学的、熱的、または生物学的プロセスによる分解が極めて困難となっています。

これらの特性によって、PFASは、撥水・撥油被覆材、消火剤、食品包装、電子機器、化粧品などに幅広く使用される一方で、その安定性や難分解性のために自然環境や体内で長期間分解されずに残留することが多く「永遠の化学物質」とも呼ばれており、その影響に対する不安から、世界的に規制が強化される傾向にあります。

各国地域の動向

PFAS規制の現状

各国地域の代表的なPFAS規制の現状と今後の動向をTable.5にまとめました。地域ごとに規制対象物質・形態に差はあるものの、世界的に規制が強化される傾向にあることが確認できます。

Table.5 各国地域のPFAS規制の一例

地域 規制 規制物質 現在の取り組みや今後の動向
欧州 REACH規則
  • ・13種類のPFASが高懸念物質リストの対象
  • ・C9-C14の長鎖パーフルオロカルボン酸が規制リスト対象。
  • ・PFOS、PFOA及びPFHxSはEU-POPsの規則リスト対象。
  • ・欧州化学品庁(ECHA)はPFAS全体に対する段階的な禁止を検討。
  • ・2023 年に産業界に対して代替物質の開発と移行を促す事を提案。
  • ・2024年9月にPFHxA(パーフルオロヘキサン酸:C5F11COOH)とその塩及び関連物質を制限する旨の官報を公示。2026年10月から施行予定
アメリカ EPAによる PFAS Strategic Roadmap
  • ・主に飲用水、防泡沫、工業用途、および調理器具や防水製品に用いられるPFOSとPFOAが対象
  • ・消費財や繊維製品におけるPFHxA(アメリカの一部の州)
    ・2020 年、EPA はPFOA とPFOS の使用を段階的に禁止し、代替技術の導入を促すことを発表。ニューヨーク州やカリフォルニア州など、一部の州においてはさらに厳しい基準が既に導入されており、PFAS を含む製品の販売が禁止されている。
日本 化学物質の審査及び製造等の規制に関する法律(化審法) PFOSとPFOA
  • ・2010年にPFOS が特定化学物質に指定され、製造や使用が禁止。
  • ・2020年にはPFOA も特定化学物質に指定され、輸入、製造、使用が原則禁止。
  • ・2023 年、環境省は地方自治体に対して監視強化を求める目的で特定のPFAS 化合物が飲料水に含まれる許容量についてのガイドラインを発表。PFAS の環境汚染が指摘されている地域では、土壌や水質の監視も強化

各国地域のPFAS規制の一例

PFAS代替として有力な湿式不織布について

PFAS代替として有力な湿式不織布について

不織布の産業においてもPFASは繊維原料や被覆材として使用されてきましたので、こうした規制を受けてPFAS代替となる不織布へのお客様の関心は増加の傾向にあります。
特にPPS不織布は、その高い機能性からPFAS代替の不織布として注目されています。PPSはスーパーエンジニアリングプラスチックのひとつで、耐熱性、耐薬品性、機械的強度など多くの優れた特性を持っています。200℃以上の高温下でも使用可能で耐薬品性も高く、使用条件によってはフッ素樹脂の代替材料として使用できる可能性があります。

廣瀬製紙ではPPS100%湿式不織布「PS」を2009年より製品化しており、目付15g/㎥~150g/㎥、厚み30μm~220μm程度の範囲での製造実績があります。Table.6に「PS」の代表的なグレードの目付と厚みを示しますが、これ以外の仕様や、孔径や強度など必要とされる物性に合わせて設計した製品も製造可能です。また、シリコーン系、アクリル系、ウレタン系、植物系等の非フッ素系被覆材と組み合わせることで、フッ素樹脂に似せた撥水性などの性質を与えることも可能です。

Table.6 PS 製品一覧

製品名 坪量 (g/㎡) 厚さ (μm)
PS0010S 10 30
PS0015S 16 28
PS0020 21 72
PS0020S 20 41
PS0040 39 99
PS0040S 40 61
PS0060 61 150
PS0060S 60 79
PS0080 81 169
PS0080S 80 102
PS0100 93 195
PS0100S 106 127

出典:廣瀬製紙株式会社 「PS」データシート(2024)

まとめ

PFASの完全な代替材料を探すのは困難と言えますが、用途に応じて必要なスペックを満たす材料を探すことで代替できる可能性はあります。例えば耐熱性であればアラミド、耐薬品性であればポリオレフィンなどが候補となります。湿式不織布においてはPPSがPFAS代替の1つの有力材料であり、優れた耐熱性、耐薬品性機械的強度などを持っています。

PFAS規制対象でない不織布をお探しでお困りの場合はお気軽にお問い合わせください。PPS不織布以外にも、お客様のご用途に最適な不織布を提案させて頂きます。