不織布の主な用途について
不織布は繊維を絡み合わせることによってシート状に加工した布のことを指し、原料や製法の違いによって様々な機能を発揮するとてもユニークな素材です。このページでは私たちの身の回りの製品から自動車などの産業用まで、不織布のどんな用途にどのように使われているのかを詳しく説明します。
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目次
不織布の製造工程の概要
不織布はマスクや食品包装材、紙おむつなどの日常的なものから、液体や気体のフィルター、自動車の内装基材や補強材などの産業用途まで広く利用されています。
下のグラフは経済産業省が2022年6月に発表した日本国内の用途別不織布の生産動向の調査結果ですが、用途がとてもわかり易く分類されていますので、以降はこの分類に沿って見ていきたいと思います。
この結果結果によると、2021年時点の不織布の用途で最も多いのは食品包装材や台所・洗濯・トイレタリー用品などの生活関連用品、2番目がマスクや使い捨てオムツなどの医療・衛生用となっています。2015年から2021年までの6年間の推移を見ると、医療・衛生用の生産量が減少している一方で、フィルターや電池のセパレータといった産業用途は増加の傾向にあり、日本国内の不織布生産の中心は汎用的な用途向けから高機能用途向けに徐々にシフトしている様子が伺えます。
(資料):生産動態統計(経済産業省)、グラフ中の%表記は生産量全体に占める割合を示す。
「その他用」には「衣料用」、「農業・園芸用」を含む。
(出典):経済産業省WEBページ マスクだけじゃない、こんなところにも;近年の不織布事情を覗いてみる 2022年6月13日
それぞれの分類ごとの具体的な用途
次に、各分類の中に具体的にどんな用途が含まれているのか、という視点で更に詳しく見ていきたいと思います。不織布の用途には、汚れや劣化に伴い、交換や使い捨てられることを前提としたものが多いという特徴があります。こうした視点でご覧頂くと、不織布の使い方をよりイメージして頂き易くなるかもしれません。
生活関連用
生活関連用品のカテゴリーには、主に私たちが日常生活で自然と利用している物が分類されています。例えばカステラに付いている保護用紙や、水出し茶に使われるティーバッグ、洗面所や台所のマットなどが挙げられます。
食品や人間の肌に直接触れる用途が多いため、人体に害のない環境配慮型の素材が使われることが多いのもこの用途で使われる不織布の特徴です。
用途 | イメージ画像 | 説明 |
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食品包装材 | 食品の鮮度を保つために使用されます。軽量で耐久性があり、通気性や吸湿性に優れ、環境に優しいリサイクル可能な素材がよく使われます。 | |
ショッピング袋 | 軽量で耐久性が高く、水で簡単に洗えることに加えてカラフルなデザインやロゴを印刷することもできます。再利用可能な素材がよく使われます。 | |
ティーバッグ | 茶葉を外に出さず、お茶の成分が効率的に抽出されるように繊維の隙間が調整されています。耐久性・通気性・透水性に加え、安全性と利便性に優れた素材で作られます。 | |
タオル | 吸水性や速乾性に加え、軽量さと柔軟性を持たせた用途です。使い捨てが可能なタオルや洗浄用クロスとして広く利用されています。 | |
マット | 高い耐久性を活かして水回りに使うものからアイロン用まで、様々な種類のマットに利用されます。マットの滑り止め用には当社の吸着性不織布が利用されることもあります。 | |
食器洗い用 | 不織布独特の細かな繊維構造により、食器の表面を傷つけずに汚れを落とすことができます。洗浄後も乾きやすく、衛生的に保てます。 | |
浄水器のフィルター | 微細な繊維構造を作ることで細かい粒子や不純物を効率的に捕捉できる不織布です。水の流れをスムーズに保ちながら高いろ過能力を発揮します。 |
医療・衛生用
医療・衛生用途には、身近なところではマスクや包帯、使い捨てのオムツが含まれ、高度な医療現場では手術用の衣や白血球の除去フィルターなどが含まれています。医療用品は感染防止の観点から使い捨てが基本となっているため、不織布がとてもよく利用されています。
用途 | イメージ画像 | 説明 |
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マスク | 微細な粒子をカットするフィルターとして不織布が利用されます。高機能な製品では当社のナノファイバー不織布が利用されています。 | |
包帯 | 不織布の高い通気性と吸収性、柔軟性を活かした用途です。アレルギー反応のリスクを下げるためにラテックスフリーの素材を使ったものも多くあります。 | |
手術用衣 | 微細な繊維を組み合わせて作られており、通気性、防水性、抗菌性を兼ね備えています。手術現場を常に清潔に保つため、使い捨てで使用されます。 | |
湿布薬基布 | 通気性と吸湿性に優れ、適度な強度と柔軟性を持つため長時間の使用でも快適さを保てます。この用途では廣瀬製紙の不織布も広く利用されています。 | |
白血球除去フィルター | 繊維の隙間を微細に調整することで、白血球を除去したり分離したりすることができます。廣瀬製紙の不織布の主要用途の1つです。 | |
使い捨てオムツ | 不織布の高い吸収性と通気性を活かし、肌を清潔に保つことでかぶれや湿疹のリスクを減少させられます。環境配慮型の素材がよく使われます。 |
産業用(車両用)
自動車用途には、足元にあるマットの基布や天井の補強材などの他に、エンジンへの異物混入を防ぎつつ空気を供給するための高機能フィルターや、重要な安全性能を担うブレーキの摩擦材が挙げられます。高い耐久性が求められるため、高強度な不織布がよく利用される傾向にあります。
用途 | イメージ画像 | 説明 |
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カーマット基布 | 高耐久性と耐摩耗性を備えた素材で作られています。汚れや水分を効果的に吸収するだけでなく、高長期間使用しても形状を保てるように加工された不織布です。 | |
ドアリム裏材やシート・天井の補強材 | 車重を下げるために軽量で耐久性が高く、吸音性や断熱性にも優れた不織布が利用されます。加工が容易なため複雑な形状にも対応可能です。 | |
エアーフィルター | エンジン内に入る空気を浄化するための用途です。不織布の高いろ過効率を活かし、微細な粒子やほこりを捕らえることでエンジンの性能と寿命を向上させます。 | |
ブレーキ用摩擦材 | 金属繊維や樹脂、セラミックス、黒鉛などと混ぜて製造します。速度を落とす機能に加え、ノイズを低減することでブレーキの寿命を延ばす効果も期待できます。 |
その他の産業用
自動車以外の産業用途には、液体や気体を選択的に透過させるフィルターや、私たちの生活に欠かせなくなったリチウムイオン二次電池のセパレータなどが含まれています。
この分野では高い耐久性と機能性の両立が必要な場合が多いため、製造にも高い技術力が求められます。耐薬品性も求められることが多いため、ポリエステスなどの合成繊維がよく用いられます。
用途 | イメージ画像 | 説明 |
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液体用フィルター | 微細な繊維構造により、排水などに含まれる微粒子を効果的に捕捉し、安定した濾過性能を発揮できる不織布です。 | |
気体用フィルター | 平板状や折り畳み式などの形状があり、廃棄ガスなどに含まれる微粒子の除去を効率的に行えます。 | |
電池セパレーター | 薄く均一な形状・高いイオン透過性・絶縁性を兼ね備えた紙状の不織布です。高い耐薬品性や耐熱性も求められます。 | |
研磨材 | 高い耐久性と研磨力に優れた合成繊維の不織布です。曲面や複雑な形状の研磨に適し、通気性が良いため研磨時に発生する粉塵を効果的に除去できます。 | |
油吸着材 | 多孔質構造によって油を効率よく吸収する特性を持ちます。軽量で耐久性が高く、廃棄も容易なため環境への影響も低減できます。 | |
メンブレン支持体 | 水の透過性と強度を兼ね備えており、浄水・廃水処理、工業・医療・食品分野などの水処理膜の基材として利用されます。 |
土木・建築用
意外かもしれませんが、土木建築の現場においても不織布は欠かせない素材の1つとなっており、砂や砂利が散乱しないように留めるための地盤安定材や、河川の流れから堤防を維持するための侵食防止材などの用途で不織布が利用されています。
私たちが暮らす住居にも、遮音材などの用途で不織布は活躍しています。
用途 | イメージ画像 | 説明 |
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地盤安定材 | 通水性と耐久性に優れるタイプの不織布が使用されます。砂利や砂が下に轢いた不織布の繊維の隙間に入ることにより、安定してその場に留まれるようになります。 | |
濾過用資材 | 建設現場等で生じる濁水を濾過するための資材としても利用されます。微細な繊維構造による高い捕集効率が求められます。 | |
侵食防止材 | 耐候性や耐薬品性に優れるタイプの不織布は、雨水や河川による土壌の侵食防止材としてもよく利用されます。 | |
ハウスラップ | 湿気は通すが水は通さない適度な繊維構造を持たせることで、建材の状態を保つためのハウスラップとして利用できます。 | |
吸音材 | 不織布と吸音材の組み合わせにより、対象周波数やゲインのコントロールを可能にした、音を吸収する不織布です。 |
その他用
その他にも、不織布はその素材や構造的な特徴を活かして様々な新しい用途で利用が検討されています。ここでは廣瀬製紙が開発している、不織布の新しい用途展開の一部を紹介致します。
用途 | イメージ画像 | 説明 |
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過酷条件下の産業用途 | PPSを使った新開発の不織布です。高い耐熱性と難燃性、耐薬品性を誇り、紙のように薄いのが特徴です。融点が285℃と高く、200℃以下で全ての薬品に対して安定するなどの優れた特徴を持ち、基材やフィルター、自動車部品などの用途でこれまで適用が難しかった過酷な使用条件でも安定して利用できる事が期待されています(詳しくはこちら)。 | |
電磁波吸収 | 表面の特殊形状により電磁波(ミリ波)を吸収することができます。様々な電子デバイスにおける電磁波干渉抑制に役立ちます。 | |
吸着シート | 発泡樹脂の微細な穴が吸盤の役目を果たし、ガラスや金属などの平滑な対象物に繰り返し吸脱着できるシートです。不織布は基材として利用されます。 |
不織布のことならお気軽にご相談ください
廣瀬製紙は日本で初めて合成繊維ビニロンを用いた湿式不織布の開発に成功した成果を基に、日用品から産業用途まで幅広い用途の不織布を開発してきました。この記事で紹介した用途の多くで、廣瀬製紙の不織布が実際に使用されています。特に高い機能性を求められる産業用不織布においては、その他用の項目でも紹介したPPS不織布の開発により、従来は適用が難しかった高温や酸アルカリ環境、高放射線環境下にも不織布の利用機会を広げるなどして業界初、世界初にこだわった技術開発を続けています。
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