不織布(ふしょくふ)とは?
不織布の特徴と性質、利点や欠点、歴史について
不織布はマスクやおむつなどの日常的な用途だけでなく工業用の材料としても広く使用されており、私たちの生活にとって無くてはならない素材です。このページではそんな不織布とは何なのかについて詳しく解説します。
目次
不織布とは
不織布とは、その名の通り繊維を織らずに作った布のことを言います。繊維をバラバラまたは一定の方向に並べてから熱や化学的な方法、または物理的に絡み合わせるなどの方法で作ります。表面を比較してみると、織物や編み物は交互に織り合わせられた繊維が規則的に並んでいるのに対して、不織布ではこの繊維の織り合わせが見られません。この繊維構造のおかげで不織布は他の布には無い様々な機能や特徴を持つことができるのです。
- 不織布
- 織物
- 編み物
また、不織布は紙のように薄いシートから厚みのあるマット状のものまで、用途に応じて密度や厚みを変えることができます。表面の質感も使う素材や製法によって大きく変わります。例えば、肌触りが重視される衣類等の用途であれば綿やシルクのような滑らかな素材を使いますが、逆に滑り難さが求められるマット等の用途であれば表面が荒くなるように、素材と製法を調整して作ることもできます。
- 滑らかなもの
- 粗いもの
- 通気性が高いもの
不織布の用途
不織布は使い捨てを前提とした生活関連用品や医療衛生用品で多く利用されており、具体的には食品包装材やショッピング袋、浄水器のフィルター、マスク、オムツなどが挙げられます。 近年では製造技術の進歩によって高機能な不織布が登場し、自動車部材や高性能な産業用フィルター、リチウムイオン二次電池のセパレータなどの用途に使用される機会が出てきました。特に日本国内で製造されている不織布は、こうした高機能用途の割合が増加の傾向にあります。
その他にも、不織布は私たちの身の回りの様々な用途に使用されています。不織布の用途について詳しく知りたい場合は以下のページをご参照ください。
不織布の主な用途ついて
不織布の特徴(利点と欠点)
不織布は繊維を絡み合わせて製造するため、多くの孔(ポア)を持つポーラス構造(多孔質)であるという特徴があります。簡単に言うと繊維と繊維の間に隙間が多く存在するということであり、このポーラス構造によって不織布には以下に挙げるような通気性や吸水性、軽さ、コスト効率などの様々な利点があります。
不織布の利点
通気性と透水性
繊維の隙間には空気や水を通すことができるため、不織布は一般的に通気性と透水性に優れています。この性質により、不織布はマスクや水の濾過装置等のフィルターとしての用途でよく利用されます。
吸水性と吸湿性
不織布の繊維の隙間には水分を保持させることもできます。不織布の吸水性と吸湿性は、おむつや生理用品などの形で私たちの日常生活でも頻繁に利用されています。
軽さ
不織布は内部に多数の隙間を持つためとても軽量であり、この軽さは持ち運びや使い捨て製品としての利便性にとても大きく貢献しています。おむつの袋が見た目に反して軽いのは、不織布のポーラス構造がもたらす軽さによるものです。
柔軟性
繊維が詰まっていないため、不織布は一般的に柔軟性が高いという特徴もあります。加工もし易いため、特定の形状や寸法に合わせることも容易です。
大量生産が可能でコスト効率が高い
不織布は繊維を織ったり編んだりする必要がないため、織物や編み物と比較すると生産効率が高く、低コストで製造できるという利点があります。
これらの特徴は繊維の隙間のサイズ、形状、分布を調整することによって様々にカスタマイズできます。さらに、元となる原料や製造工程の組み合わせによって強度や耐熱性、耐薬品性などの機能を付与できるのも不織布の魅力的な特徴です。
不織布の欠点
不織布は繊維が絡み合っているだけであり、織物や編み物と違って規則的な構造を持っていないため摩耗や引っ張りなど物理的な力に対して弱くなる傾向があります。その他にも構造的な特徴に起因する欠点として伸縮性の低さや劣化のしやすさなどが挙げられますが、こうした欠点は原料に強度の高い素材を混ぜたり、熱的に接着したりすることで補うことができます。
不織布の歴史
不織布の歴史については諸説ありますが、起源はドイツのフェルト業者が毛屑を接着剤で結合して作ったものであり、工業的な生産は1930年にアメリカで不織布の特許が得られてからだとされています。それから暫く需要が伸び悩みましたが、1952年にアメリカのペロン社が発表した安価で通気性が良く引き裂きに強くて反発性のある不織布が好評を得たことで不織布産業の拡大が始まり、現在のような一大産業へと成長しました。
日本においては1954年頃にベロン社からの紹介がきっかけとなり不織布に対する関心が急激に高まったといわれています。1956年にフェルト業を営む会社などが米国から輸入した設備によって乾式不織布という、水を使わない製法で作る不織布の製造を始めたのを皮切りに、高知で製紙業を営んでいた金星製紙株式会社が国産設備による乾式不織布の製造に成功したことで国内生産の歴史が幕を開けました。1958年には同じく高知で製紙業を営んでいた当社(廣瀬製紙株式会社)が和紙の製造技術を応用してビニロン繊維100%の湿式不織布の製造に成功したことによって日本の不織布産業が本格的に花開きました。
こうした産業の発展を後押しする動きとして、1959年に日本不織布工業会が設立され、1987年に設立された日本不織布振興会との統合により1998年に今日の日本不織布協会が発足しました。日本不織布協会の主導によって産官学の連携や人材育成などの面で日本の不織布産業の発展と成長が進められています。
参考文献:衣料並びに工業用不織布 土林貞雄 著 繊維技術研究社 1960
不織布 日刊工業新聞社 1965
不織布の製造方法について詳しく知りたい場合は以下のページをご参照ください。
不織布の製造工程の種類と特徴
不織布の原料
不織布の原料には天然繊維と化学繊維の2種類があります。天然繊維は綿や麻などの自然由来のものであるのに対し、化学繊維はポリエチレンやポリエステルなどの人工的に作られた繊維のことを言います。比較的よく使われるのは化学繊維であり、天然繊維と比べて耐熱性や耐薬品性などの機能面に優れています。一方で、天然繊維は使い終わった後に自然に戻りやすいため、環境に優しい選択肢として注目が高まっています。
天然繊維
その名の通り、自然由来の原料を用いた繊維です。綿(コットン)、竹、麻、ウール、シルクなどの原料がこれにあたり、化学物質を含まないことから食品や皮膚に触れる用途に適しています。
化学繊維
化学繊維は、その多様な性質を活かして日常生活から工業用途に至るまで幅広い分野の不織布の製造に広く用いられます。化学繊維は大きく合成繊維と再生繊維の2種類に分けられます。
合成繊維
化学繊維は天然繊維の逆で、人工的に作られた繊維です。製造プロセスの違いから合成繊維と再生繊維の2種類に分けることができますが、どちらも天然繊維と比較して耐熱性や耐薬品性などに優れています。代表的な化学繊維としてはポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ナイロン、レーヨン、アセテートなどがあります。
原料の種類や特徴について詳しく知りたい場合は以下のページをご参照ください。
不織布に使用される素材の種類と特徴について
不織布のことならお気軽にご相談ください
不織布は製法と原料によって特徴や機能が大きく変わるため、目的に応じた機能をどう実現するかがとても難しい課題です。
こうした課題に対して、廣瀬製紙は日本で初めて合成繊維ビニロンを用いた湿式不織布の開発に成功した成果を基に、1958年に設立して以来60年以上にわたって不織布の研究開発を続けてきました。常に世界トップクラスの技術を牽引し続けることをめざして「100%合成繊維を使った不織布」や「世界一薄い抄紙技術(2g/m2ポリオレフィン繊維100%)」を有し、独自開発のエレクトロスピニング法によるナノファイバーを使った不織布や、リチウムイオン二次電池のセパレータ、機能性エアフィルター、医療用などの幅広い分野の研究開発に取り組んでいます。
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