湿式不織布について
特徴と製造方法、用途と次世代技術
湿式不織布とは、湿式法と呼ばれる液体を利用した製法で作られた不織布のことです。
不織布の製造方法には大きく分けて乾式法と湿式法の2種類があります。この2つの大きな違いは繊維をシート状にする工程にあり、乾式法が空気中でウェブ(繊維層)を形成するのに対し、湿式法は和紙と同じ要領で液体に分散させた繊維を抄くことによって水中でウェブを形成し、不織布を作る製法です。
このページでは湿式不織布の特徴や用途、製造方法などについて、日本の湿式不織布のパイオニアとして60年以上の研究開発と量産実績をもつ廣瀬製紙株式会社が詳しく解説します。
目次
湿式不織布の特徴
まずは湿式不織布がどのようなものなのか、構造的な特徴や機能的な特徴を見て見ましょう。
湿式不織布は紙と同じような平滑な表面を持ったシート状をしており、拡大して見ると細長い繊維が縦、横、奥方向にランダムに絡み合ったような構造をしています。

製造方法は前述の通り和紙に似ており、材料となる繊維を水などの液体に分散させた後、抄き網の上で濾過してシートを作ります。
こうした工程により作られる湿式不織布には、乾式不織布には無い以下のような特徴があります。
- ・繊維配向、密度、孔径等の品質が非常に均一でムラが少なく、表面の平滑性が高い
- ・厚み、密度、空隙率などの調整が容易なため極薄や高密度なシートの製造が可能
- ・複数原料の配合や粉体等の混抄が可能
- ・短い繊維を使用して生産する
- ・紙のような風合いを持っている(加工の工夫次第で布に似た風合いにもできる)
| 乾式不織布(乾式法) | 湿式不織布(湿式法) | |
|---|---|---|
| 繊維の種類 | 有機繊維が中心 | 有機・無機繊維の両方可能 |
| 繊維の向き | 一方向に整列またはランダム | ランダム |
| 繊維の太さ | 製造プロセスにより異なる | 一定の範囲内で調整可能 |
| 繊維の長さ | 長繊維 | 短繊維 |
| 強度 | 高い | 低い |
| 触感さ | 硬い | 柔らかい |
| 厚み | 厚い | 薄い |
表1:一般的な乾式不織布と湿式不織布の特性
湿式不織布は、繊維の間に隙間がある多孔質なため、通気性や濾過性、保湿性、柔軟性などの特徴を有しています。また、原材料には植物性繊維はもちろん、無機、有機、金属繊維などの幅広い材料を使うことができ、各材質に基づく機能的特徴を有することができます。それを紙のように薄く作れるため、湿式不織布は高機能な紙という意味で「機能紙」とも呼ばれます。
製造方法
次に湿式不織布の製造方法を見ていきます。湿式不織布は他の不織布と同様に、原料の分散、ウェブ(繊維をシート状にしたもの)の形成、結合、加工、の4つの工程を経て作られます。

工程ごとに詳しくみていきましょう。
1. 原料の分散
原料の分散工程は、繊維を水中に単繊維レベルまでほぐし、繊維が水中に均一に分散したスラリーを形成する工程です。分散が不均一だと、シートを形成した際にムラ等が発生する為、後工程での品質不良を防ぐには均一な分散が不可欠です。
2. ウェブの形成
ウェブの形成工程は、湿式不織布の製造工程の中でも特に特徴的な工程です。スラリーを、和紙を漉く要領で抄き上げてシート上にします。繊維はそれぞれ比重や親水性が大きく異なるため、均一に分散させて均一に漉き上げるためには固有の技術やノウハウが必要となる、特に技術力が求められる工程です。
3. 結合
抄き上げた繊維のシートに圧力や熱をかけて脱水・結合させるのが結合工程です。湿式不織布の一次強度は、主にこの工程で得られます。
4. 加工
最後に追加の熱処理(カレンダー加工)や特殊な化学処理を行い、必要な物性や撥水性、防炎性などの機能を追加するのが加工の工程です。例として、カレンダー加工では選択した結合方法によって不織布の強度や伸縮性、耐久性などが変化します。
このように、湿式不織布は各工程でどの原料や方法を選択するかにより機能が大きく変わる、高いポテンシャルを秘めた素材なのです。
不織布全般の製法について詳しく知りたい場合はこちらをご覧ください。
不織布の製造工程の種類と特徴
代表的な用途
湿式不織布はどのような用途に用いられるのでしょうか?実は湿式不織布は、食品包装紙などの身の回りの生活用品から高機能フィルターなどの工業用材料まで幅広く利用されています。前述の通り原料となる繊維や工程によって特徴が大きく変わりますので、例えば接着剤などの化学物質を使わずに作った場合は、食品や医療品など人の体に触れる用途に適します。耐熱や耐薬品の優れる繊維を原料にした場合は、機能性が重視される産業用途に適した湿式不織布となります。
表2に湿式不織布の代表的な用途をまとめました。
| カテゴリー | 具体的な用途 |
|---|---|
| エネルギー | 各種一次電池および二次電池用のセパレーター |
| スーパーインシュレーション・スマホ等の断熱材 | |
| 工場の生産ラインで使う工程紙 | |
| 環境 | 薄膜の液体用フィルターの形状を安定させるための支持体 |
| ナノファイバーを使用した低圧損エアフィルター | |
| スマホやタブレット用などの電磁波シールド材 | |
| 生分解性育苗ポットなどの農業資材 | |
| 生活 | カステラやシュークリームなどに使う食品包装材 |
| カレンダーやゼッケンなどに使う高品質な印刷基材 | |
| 医療・福祉 | マスクやガーゼ、白血球除去フィルターなどの医療材料 |
表2:湿式不織布の代表的な用途
これらは湿式不織布の用途のごく一部であり、この他にも湿式不織布の用途はまだ沢山あります。
不織布全般の用途について詳しく知りたい場合はこちらをご覧ください。
不織布の主な用途について
湿式不織布の次世代技術
このように、私たちの身の回りには様々な形で湿式不織布が存在しており、その用途ごとに様々な技術や製法が用いられています。しかし近年、湿式不織布にはさらなる機能性が求められており、こうしたニーズに応えるために湿式不織布に携わる技術者は日々新しい技術の開発に取り組んでいます。
一例になりますが、このセクションでは具体的なニーズとそれに応える新技術について見ていきたいと思います。
高機能繊維を使った不織布
湿式不織布の機能は原材料とする繊維によって変わり、有機繊維だけではなく無機繊維も広く利用できます。しかしどのような繊維でも大丈夫というわけではなく、繊維によっては均一に分散してウェブを作るのが難しいものもあります。こうした扱いが難しい高機能繊維を利用する製造技術の開発は湿式不織布が抱える大きな課題の1つです。
1例を挙げると、PPS(ポリフェニレンサルファイド)を使った不織布があります。PPSは結晶性の高機能熱可塑性エンプラで、耐熱性(融点280℃、最大連続使用温度が200-220℃)、耐蒸熱性、耐薬品性(酸、アルカリ、有機溶剤などに対して安定)、断熱性、難燃性(LoI=34の高い自己消化性)などにおいて極めて優れた性能を発揮する繊維ですが、安定生産が難しくこれまで湿式不織布の原材料には利用されてきませんでした。しかし原料メーカーと緊密に連携し品質向上に根気強く取り組んだ結果、廣瀬製紙が初めて湿式不織布化に成功し、市場に供給できるようになりました。高い耐熱、耐薬品性を求められる、エネルギー、モビリティ分野等で活躍しています。
またガソリン等の燃料に高い耐性のあるPOM(ポリアセタール)を使った湿式不織布も、2025年に大和紡績株式会社・グローバルポリアセタール株式会社・廣瀬製紙の3社による技術ブレイクスルーの結果として実現しました。
このように、湿式不織布の開発の最先端では従来技術では扱いが難しかった繊維の不織布化を着実に高めており、今まで実現できなかった高機能な不織布を世に送り出しています。
異なる湿式不織布の2層構造
高機能なフィルター用途では、分離膜の機能を損なわずに膜の強度を保持するために、高密度な不織布の特徴と低密度な不織布の特徴を併せ持つ複雑な要求を満たす不織布が求められます。この問題を解決するために開発されたのが異種二層不織布という、異なる性質の繊維層を二層構成として積層した不織布です。表面側の表層には直径が細い繊維が用いられ、目開きの小さい緻密な層となっています。一方、裏面側の裏層には太い繊維が用いられ、厚みと機械的強度を確保する層になり、それぞれ異なる役割を分担しています。

これにより、異種二層不織布の表面は平滑で細かな孔径を持ち、膜形成用の樹脂が染み込みにくい構造になっています。一方で全体としての厚みと強度は裏層で担保され、支持体としての強度や耐圧性を損ないません。また、異種二層は一体化されているため界面で十分な密着・一体化が得られ、層間剥離の心配がない構造となっています。
湿式不織布はこれまで一層構造を前提として技術開発が行われてきましたが、近年ではこのような二層構造を作ることで従来の技術では成し得なかった新しい機能を実現できるようになっています。
異種二層不織布について詳しく知りたい場合はこちらをご覧ください。
湿式不織布のことならお気軽にご相談ください
湿式不織布はそのユニークかつ豊富な機能で私たちの生活を支えていますが、その豊富さゆえにどんな用途や機能で使えるのか、または湿式不織布でご自身がお持ちの技術課題を解決できるのかどうかが分からない等のお悩みをお持ちの方も多いと思います。
そのような場合はぜひ廣瀬製紙にご相談ください。廣瀬製紙は1958年に日本で初めてビニロン100%の湿式不織布を販売開始して以降、日本の湿式不織布のパイオニアとして研究開発と量産実績を重ねてノウハウを培ってまいりました。
お客様の技術課題に対して弊社の専門チームが喜んでお答えさせて頂きますので、お気軽にお問い合わせいただけたらと思います。
