微粒子やウィルスをフィルタリングできるナノファイバー不織布の技術について
目次
ナノファイバー不織布の特徴
ナノファイバー不織布とは?
まずナノファイバーとは、繊維の直径がおよそ1μm以下(1~1000nm程度)という極細繊維のことです。人の髪の毛(直径約0.1mm=100,000nm)の100分の1の太さとも例えられます。繊維がナノスケールになることで比表面積(単位重量あたりの表面積)は飛躍的に増大し、通常の繊維に比べて100~10,000倍もの広い表面積を持ちます。
ナノファイバー不織布とは、こうした極細繊維と既存の不織布を複合化した不織布をさします。ナノファイバーはフィルターとして利用すれば低坪量でも大量の物質を吸着できるため、微粒子を効率よく捕集できるフィルターの設計が可能となります。さらにナノサイズならではの「スリップフロー現象」と呼ばれる効果も知られており、繊維直径が約65nm以下になるとその効果が顕著に表れる事が知られています。気体や液体がナノファイバー表面を流れる際、粘性抵抗が減少するため、微細な粒子を捉えても圧力損失(ろ過抵抗)の増加を最小限に抑えられます。こうした特有の性質により、ナノファイバー不織布はろ過用途において透過性(通気性)をわずかに低下させるだけで高い捕集効率が得られることが報告されています。
以下の拡大写真で、太い芯鞘繊維にナノファイバー繊維が複合化されている様子を見て頂けます。
HEPA規格同等以上の性能を達成するナノファイバー不織布
ナノファイバー不織布は極細繊維が三次元的に積層することで形成されるため、高空隙率(80%以上)と鋭い細孔径分布を持ちます。その結果として、ナノファイバー不織布を用いたフィルターにはF9クラスからHEPA相当の性能に至るものも現れ、微細粒子やウイルスサイズの捕集において顕著な成果を示しています。
捕集効率を高めつつ圧力損失を抑えるという特性は、マスク用フィルターや空調フィルター、クリーンルームなどの用途においてとりわけ重要であり、近年の社会情勢を背景に需要は急速に拡大しました。ナノファイバー不織布は、その微細構造によって「高効率・低抵抗」という理想的な濾過機能を具現化した素材なのです。
ナノファイバー不織布の製造技術
エレクトロスピニング法
現在、ナノファイバーを製造する方法としてはいくつかの製造方法が存在します。代表的なものとしてエレクトロスピニング(電界紡糸法)が挙げられ、これは高電圧を印加したポリマー溶液から極細の繊維を紡糸する技術です。エレクトロスピニング法では繊維径1µm以下のナノファイバーを比較的容易に作製でき、得られる繊維は均質な長尺繊維で構成されます。この方法で作られたナノファイバー不織布は、孔隙率が80%以上と非常に高く、細孔径分布も鋭い(均一)といった特徴を持ちます。また、溶液中に機能性材料を混ぜることで抗菌性や導電性など機能性を付与したナノファイバーの製造も可能です。
エレクトロバブルスピニング法
廣瀬製紙はエレクトロスピニング法に独自の改良を加えた非ノズル式電界紡糸技術を開発し、ナノファイバーの量産化に取り組んできました。弊社は2000年代半ばからナノファイバー研究を開始し、特許技術となる「エレクトロバブルスピニング法」を確立しています。エレクトロバブルスピニング法はその名の通り紡糸にノズルを用いない方式で、紡糸溶液から形成される泡から同時多発的にナノファイバーを発生させる手法です。この革新的な方法により、ノズル目詰まりによる生産効率低下が解消され、紡糸面積を大型化して一度に多くの繊維を作り出すことが可能になりました。さらに紡糸ユニットを多数配置することで、生産ラインの幅方向のナノファイバーの坪量のばらつきを低減することに成功しています。
その他の製造方法
エレクトロスピニング以外の手法としては、溶融樹脂を細孔から押し出すメルトブロー法や、高速回転により繊維を飛ばす遠心式紡糸法、さらには木材や甲殻類の殻をナノレベルまで解繊する機械的・化学的解繊なども研究されています。
ナノファイバーと抄紙技術の融合
工業的なナノファイバーと不織布の複合化の方法としては、エレクトロスピニングで得られるナノファイバーと既存の不織布を複合化させる方法の他に、湿式不織布を製造するときのマイクロファイバーに、別の手法で製造されたナノファイバーを混ぜて抄紙する方法があります。この代表例が、ナノファイバーとして「ナノフロント® ※」を用いた当社の湿式不織布 NFタイプです。(※「ナノフロント®」 は帝人フロンティア(株)の登録商標です。)ナノフロント® は直径数百 nm 級のナノファイバーであり、高い強靭性と高吸収性などの機能を持つ材料です。このナノフロント® をパルプや他の合成繊維等と混ぜて抄紙することによってナノファイバー複合不織布を製造することができます。この方法は、抄紙技術を活用するため、品質の均一性やシート設計の自由度が高く、高い捕集率、遮熱性・防透性、保液性・含浸性、易放出性などの優れた特長をもつため、フィルター、メディカル、バイオ、コスメ関連、遮光シート、障子紙など多様な応用の可能性があります。NFタイプの素材としては PET、PP、ナイロン 6 を有しており、この他の素材も製造可能です。
用途別応用事例
ナノファイバーの特徴を活かした応用分野は極めて広範で、「フィルターからバイオメディカルまで」まさに多彩です。以下、用途分野ごとの代表的な応用例を紹介します。
- フィルター分野(空気・液体ろ過):ナノファイバー不織布は、高性能フィルターとして最も実用化が進む分野です。エアフィルターでは、従来の基材(例:ガラス繊維紙やメルトブローン不織布)の表面にナノファイバー層を吹付けることで約0.3μmから10μmの微粒子まで捕集可能となり、HEPA相当の性能(例:集塵効率F9クラス)を満たす製品も開発されています。液体フィルターへの応用も進んでおり、水道水や飲料水の濾過、医薬品製造プロセスでの除菌フィルター、血液浄化用フィルター、工業用油や燃料の濾過など多様な液体分離用途でナノファイバーが利用されています。
- エネルギー分野(電池材料など):ナノファイバーは次世代エネルギーデバイス材料としても注目されています。特にリチウムイオン電池のセパレーター(絶縁膜)への応用は研究開発が活発です。ナノファイバーセパレーターは均一な細孔径分布を持ち、イオン通導性に優れると同時に熱的・化学的安定性も確保できます。その結果、電池のエネルギー密度を大幅に高め、充放電速度を向上させ、寿命を延ばせる可能性があるとされています。
- 医療・バイオメディカル分野:生体適合性などの高機能ポリマーからなるナノファイバーは医療分野での応用も期待されています。例えば創傷被覆材では、生体由来高分子(コラーゲン、ゼラチン、キトサンなど)から作ったナノファイバー単独膜が創傷保護に検討されています。ナノファイバーからなる創傷被覆材は患部からの体液の流出を防ぎ、損傷部を保護します。また繊維に抗菌剤や抗炎症薬を添加しておけば、傷口の感染防止や治癒促進効果も期待できます。再生医療・組織工学の分野においても、ナノファイバーの積層構造は生体内の細胞の接着・増殖を促進させる細胞外マトリックスと近い構造となるため、細胞接着性ポリマーをナノファイバー化することで、細胞の増殖に適した足場環境を提供することができ、再生医療分野への応用が期待されています。
- 繊維・テキスタイル分野:手術用ガウンや医療用マスク、防護服などでは、病原体や微粒子を通さない一方で通気性も必要とされます。ここに疎水性ポリマー製のナノファイバー不織布層を挟み込むことで、ウィルスや細菌を遮断しつつ湿気は通す選択透過バリア層が実現できます。またアウトドア衣料など高機能アパレルでも、防水透湿性を持つナノファイバー単独膜が利用されています。
以上、ナノファイバーの用途例をフィルター、エネルギー、医療、テキスタイルと紹介しましたが、この他にも吸着材(脱臭・水処理)や機能性コーティング、複合材料の補強繊維など、応用可能性は多岐にわたります。
ナノファイバー不織布の将来性
市場動向
ナノファイバー市場は現在大きな成長局面にあります。特に2020年前後には新型コロナウイルス感染症の流行によりマスク・フィルター需要が増大し、ナノファイバー市場に追い風となりました。パンデミックを契機に高性能フィルター素材として広く知られるようになったことも、市場拡大に寄与しています。
環境・エネルギー分野でも高性能フィルターへのニーズが一段と増しています。持続可能な社会の観点からバイオマス由来のナノ素材であるセルロースナノファイバー(CNF)の役割も重要です。日本では官民を挙げてCNFの実用化・普及が推進されており、経済産業省は「CNFの製造コストを1kgあたり500円以下に下げられれば、2030年に関連市場規模1兆円を生み出せる」と試算しています。
技術動向
市場拡大の鍵は量産技術の確立とコストダウンです。ナノファイバーはその極細さゆえに量産が難しいという弱点が指摘されてきました。しかし近年は上述した新技術開発や、一度に多数の繊維を生成できる装置開発などにより生産性向上が着実に進んでいます。また機能性ナノファイバーの開発も技術動向の重要なトピックです。抗菌剤や吸湿剤を練り込んだフィルター用ナノファイバー、導電性ポリマーを用いた電子部材用ナノファイバー、薬物を含有した医療用ナノファイバーなど、用途に応じた機能を持つ繊維が研究されています。こうした技術革新が進めば、ナノファイバー製品の性能向上とコスト低減が両立し、市場拡大に一層弾みがつくでしょう。
総じて、ナノファイバーの未来は市場ニーズの拡大と技術的ブレークスルーによって大きく拓かれようとしています。今まさに各方面で研究開発・製品化競争が進んでおり、数年先には私たちの生活や産業を支える基盤素材の一つとして定着している可能性も高いでしょう。
廣瀬製紙のナノファイバー不織布
廣瀬製紙は湿式不織布のパイオニア企業として培った技術力を活かし、ナノファイバー分野でも積極的な取り組みを行っています。前述のように他社に先駆けて非ノズル式電界紡糸によるナノファイバー量産技術を確立し、17年にわたる研究開発の末に2021年から本格的な量産体制へ移行しました。弊社のナノシア工場で稼働する生産ラインは特許取得済みのエレクトロバブルスピニング法を採用しており、従来比3倍という画期的な生産効率を実現しています。これにより安定した大量供給が可能となり、性能面でも均質で品質の高いナノファイバー不織布を生み出しています。
2018年にはナノファイバーを用いたマスクフィルターの開発の成果により「高知県地場産業大賞」を受賞しています。新型コロナ禍において需要が急増した際も、このナノファイバーフィルターの量産体制が貢献し、安定供給に寄与しました。現在は空調エアフィルターなど産業資材用途への展開も進められており、電気自動車用電池セパレーターや医療・エネルギー分野などへの適用可能性も模索しています。
廣瀬製紙はこれからも「紙の可能性」を追求しながら、ナノファイバーという新たなフィールドでオンリーワン技術の研鑽と製品開発を進めていきます。ナノファイバー不織布にご興味がありましたらお気軽にお問い合わせください。弊社の専門チームが喜んで対応させて頂きます。
