不織布の表面処理技術|親水性を付与するコロナ処理とプラズマ処理について
不織布とは、繊維を織ったり編んだりせず、繊維同士をランダムに機械的に絡ませたり、熱や圧力、接着剤等で結合したりして作るシート状の素材です。軽量で強度があり、吸水性・通気性・濾過性など多様な機能を付与できます。コスト面でも優れており、マスクやおしぼりなどの衛生用品、医療用資材、産業用フィルター、電池用部材など幅広い用途で利用されています。
しかし、プラスチックを主な原料とする不織布は、水をはじいてしまう疎水性のものも多いため、液体をろ過するフィルターや医療用ガーゼ、印刷用基材など用途によっては「水になじむ」特性=親水性を付与すること(親水化)が必要になります。
この記事では、不織布を「水になじむ(親水化)」ようにするためによく用いられている代表的な表面処理の技術として、コロナ処理とプラズマ処理を紹介します。どちらも難しく聞こえますが、身近な原理を利用した技術です。その仕組みや特徴、どんな分野で役立つのか、そして今後の可能性までを一緒に見ていきましょう。
目次
親水性とは?
まず、そもそも「親水性」とは何でしょうか?親水性とはその名の通り、水に親しみやすい性質のことです。例えば、新聞紙に水を垂らすとスッと広がってすぐに吸われていきますが、ビニール傘に垂らした水は玉のようになって広がりません。これは表面の性質が違うからです。
親水性を持つ不織布は水とのなじみが良く、水をよく吸い込むため、液体フィルターや紙おむつ、医療用ガーゼなどで活躍しています。

不織布への親水性付与に表面処理が重要な理由
不織布の多くは機能性に優れたポリエチレンやポリプロピレンといったプラスチックを利用して作られていますが、これらの素材は表面が炭素と水素からできた性質をもち、水と仲良くできる部分がほとんど無いため水が浸透しづらく用途が限られています。しかし、複雑な表面形状をもち、かつ、表面積の大きな不織布では表面の性質がほんのわずか変わるだけでも驚くほど性質が変わってきます。この表面の性質を変えるために活躍するのが「表面処理」の技術です。
代表的な表面処理技術として、コロナ処理やプラズマ処理があります。これらの処理では、空気中の酸素や窒素に強いエネルギーを与えて、反応しやすい状態(活性化した状態)にします。 活性化した酸素や窒素は、不織布の外側にある分子と反応します。このとき表面の分子に新しい成分が付け加わることもあれば、もともとの分子の結合が途中で切れることもあり、その結果として表面に -OH、-NH₂、-COOH などの、水とよくなじむ性質(親水性)をもつ部分が作られます。すると、水と引き合う力が強くなり、水が表面に広がりやすくなります。つまり、表面の性質が水をはじく状態から水を引き寄せる状態へと変わることで、親水性が実現されるのです。
このように、不織布の用途を拡大するためには親水性の付与が効果的であり、その方法として不織布の表面を改質する表面処理技術がとても重要です。ここからは先の章では代表的な表面処理技術であるコロナ処理とプラズマ処理がどんな方法なのかを詳しく見ていきましょう。
親水性を付与する代表的な表面処理技術
コロナ処理
コロナ処理とは、高電圧をかけて空気中にコロナ放電を起こし、そのコロナ放電のエネルギーやコロナ放電によって生じた活性な酸素や窒素によって表面の性質を変化させる技術です。コロナ放電とは気体中の放電の一形態で電極の突端などに生ずる局所的な放電です。「コロナ」という言葉は、ギリシャ語で「王冠」を意味する「corona」に由来し、この局所的な放電現象が王冠のように見えることから付けられました。
コロナ放電は、大気圧付近(常圧)で電極間に不均一な電界(針対板など)を形成することで発生します。コロナ放電は局所的なため、空気の電離も部分的で完全にプラズマ化はしません。 コロナ処理は、装置の構造がシンプルかつ安価でロールツーロールの生産ラインにも組み込みやすいため、包装材やフィルムの世界で広く使われています。しかし、コロナ放電の特徴から品質の均一性には注意が必要になります。

コロナ処理
プラズマ処理とは電磁場を利用して気体をプラズマ状態(電子、イオン、中性粒子が混在する高エネルギー状態)にして、その中に置かれた不織布やフィルムなどの材料表面をこのプラズマの作用によって変化させる技術です。プラズマは「物質の第4の状態」とも呼ばれ、固体・液体・気体とは異なる特性を持ち、高エネルギーで化学的に非常に活性な物質の状態です。 真空(低圧)または大気圧環境下で電極間に電磁場(高周波、直流、マイクロ波など)を印加することで気体分子が電離してプラズマ状態になります。酸素、窒素、アルゴンなど様々なガスをプラズマ状態にすることができます。
気体はコロナのように局所的ではなく全体的に電離するため、コロナ処理よりも均一な表面処理が可能です。プラズマ状態になった気体の高エネルギー粒子(電子・イオン)やラジカルが材料表面に作用することで、化学結合の切断や官能基の導入が行われます。プロセス条件(ガスの種類、圧力、出力など)を変えることによって親水化、撥水化、表面洗浄、エッチング、特定の官能基の付与など多様な処理が可能になります。
プラズマ処理は、コロナ処理と比べて品質の均一性が高く、多様なガスの選択や低温処理が可能で処理条件の制御範囲が広く、また、分子レベルの精密な機能の付与が可能です。しかし、コロナ処理と比較して装置は複雑で高価になる傾向があります。
プラズマを不織布に当てることで、不織布の繊維の表面に水と相性の良い水酸基やカルボキシル基などの官能基を付けることができ、これによって親水性が付与されます。しかもコロナ処理よりも均一かつ、より強力に処理できる場合もあるため、例えば医療用資材や電子部品などの高品質・高機能な製品が求められている分野での利用が進みつつあります。

コロナ処理やプラズマ処理などの表面処理で親水化しても、時間がたつと元に戻ってしまうことがあります(エイジング現象)。これは表面に導入した官能基が分子の熱運動などによって徐々に内部に埋もれたり、導入した官能基が反応して変化したりするためです。この対策として、保管条件(保管期間、温度や湿度等)を管理するとともに、さらに官能基を安定化させる処理や、表面処理後すぐに使うなどの工夫が必要になる場合があります。
親水性の評価方法
表面処理によって「本当に水になじむようになったのか(親水性が付与されたのか)」はどのように確かめて、評価したらよいのでしょうか?
以下に親水性の評価に使われている代表的な方法をまとめました。
| 測定方法 | 概要 | 特徴 |
|---|---|---|
| 接触角測定 | 水滴を表面にのせてどれくらい広がるかを角度で見る方法 | 水が広がりやすくなったかを確かめるためによく使われる |
| 表面自由エネルギー測定 | 材料の表面がどれくらい水となじみやすいかを数値で表す方法 | 表面の親水性・疎水性の要因を詳細に評価可能 |
| 浸漬試験 | 材料を水に入れて沈む速さや水のしみ込み具合を見る方法 | 簡易的で定性的評価向き(ラボで手軽に実施可能) |
| 表面張力液試験 | 表面張力の異なる液体を使ってぬれるかどうかを調べる方法 | プラスチックフィルム業界で広く使用されている |
| 動的濡れ性評価 | 水が時間とともにどのように広がったりしみ込んだりするかを調べる方法 | 吸水性や表面エネルギー変化がある材料に有効 |
表1:一般的な乾式不織布と湿式不織布の特性
中でも、接触角測定は簡便に親水性の定量的な評価が出来るため、よく使われる方法です。接触角測定では、水滴をサンプルに垂らしたときのサンプル表面と水滴の角度を測って、この角度によって親水性や疎水性を定量的に評価します。水との接触角が小さいほど親水性が高く、大きいほど疎水性になります。
親水性の付与により広がる不織布の用途
親水性と高機能の両立が求められる用途
ポリオレフィン不織布やPPS系の不織布などは高い薬品製性や耐熱性を持つ一方で親水性は持ち合わせていません。そのままでは水をコントロールする必要のある水処理フィルターなどのような用途には不向きなのですが、表面処理で親水性を付与することにより用途が開けます。
以下に疎水性の不織布素材の特徴と親水化後の用途例に関してまとめました。あくまで一例ですが、親水性の付与によって不織布の用途がとても開けることを感じていただけるかと思います。
| 種類 | 特徴 | 親水化後の用途 |
|---|---|---|
| ポリオレフィン系 | ・耐薬品性 ・ヒートシール性 |
・水系電池セパレーターへの適用 ・医療用吸収材への展開 ・ラミネート基材としての利用 ・含浸基材としての利用 |
| ポリフェニレンサルファイド(PPS)系 | ・耐熱性 ・耐薬品性 ・機械強度 |
・触媒担体用途 ・湿式高温排ガスフィルター ・水系分離膜支持体 |
| ポリエチレンテレフタラート(PET系) | ・強度 ・耐熱性 |
・コンクリート補強層 ・含浸基材としての利用 ・コーティング基材としての利用 ・ラミネート基材としての利用 ・水処理フィルター |
吸水性向上が重要となる用途
親水性の向上は、吸水性の向上でもあります。
吸水性の向上が重要となるのは水や体液などの液体をすばやく取り込み、広げ、保持することが求められる用途です。たとえば紙おむつや生理用品などの衛生材料では、表面で液体をはじいてしまうと不快感や漏れの原因になるため、瞬時に吸収層へ液体を移動させる性能が不可欠です。医療分野でも、創傷被覆材や手術用ガウンなどでは、血液や薬液を適切に吸収・拡散することで衛生性や安全性を高める役割があります。
水処理フィルターや加湿器フィルターのように、水を均一に広げたり安定して供給したりする用途でも高い吸水性が重要です。材料が水をすばやく取り込めば、ろ過効率の向上や安定した蒸発性能につながります。
親水性を付与する廣瀬製紙の表面処理技術
このコラムでは不織布に親水性を付与する方法とメカニズム、親水性の評価方法、親水性の付与によって開ける用途に関して網羅的に解説しました。
親水性を付与する方法としてはコロナ処理とプラズマ処理を紹介しましたが、最近では、非熱プラズマ処理(冷プラズマ処理あるいは低温プラズマ)などの低温で表面処理ができる新技術が登場しています。これにより、従来難しかった材料の表面処理や基材へのダメージを最小限におさえた表面処理などが可能となり、適用分野が今後さらに広がることが期待されています。
廣瀬製紙では通常の製品ラインナップに加えて、このような表面処理技術を応用した親水性不織布を提供することも可能です。材料は変えずにもっと濡れ性を良くしたい、保水性や吸水性を高めたい、接着性を良くしたいなどの問題などにお困りの時には、ぜひ、一度ご相談ください。弊社の専門チームがご対応させて頂きます。
