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出雲・神在祭(かみありさい)参拝記
年中行事となった特別な時間

公開日:2025.12.15 更新日:2025.12.15
出雲大社の御神座

出雲への年中行事 ― 神在祭とのご縁

令和元年の秋、私は初めて出雲大社の神在祭(かみありさい)に足を運びました。それ以来、毎年この時期になると出雲へ向かうことが、私にとって欠かせない年中行事となっています。

神在祭は旧暦の10月11日から17日にかけて執り行われる祭礼です。旧暦で日程が決まっているため、現在の暦では毎年日付が変わります。今年は11月のあたまでしたので、気候的にはまだ穏やかで雪の心配もありませんでした。しかしその年によっては、12月に入ってからの開催となり、山陰地方の冬の寒波を心配しながら向かった年もありました。

高知で暮らしていると、スタッドレスタイヤを履く機会はほとんどありません。けれども出雲への参拝を始めてからは、雪や凍結に備えてスタッドレスタイヤを購入することにしました。以来、毎年この時期になると冬タイヤに履き替え、準備を整えてから出発するのが恒例となっています。

これまでの参拝は、いつも超特急のスケジュールでした。金曜日の仕事を終えてから夜10時に高知を出発し、深夜のうちに山陽道、中国道を走り抜けて、早朝に出雲大社へ到着。参拝を済ませた後は、帰り道に立ち寄りたい神社を巡りながら、その日の夜中0時には自宅に戻る――そんな慌ただしい日帰りの旅を続けてきました。

なぜ日帰りかというと、我が家には愛犬がいるからです。長時間家を空けることができず、どうしてもその日のうちに帰らなければなりませんでした。

ところが今年は、たまたま出雲大社の近くでペットを預かってくれる施設を見つけることができました。これまで考えていなかった「ゆっくり出雲に滞在する」という可能性が生まれたのです。愛犬も一緒に連れて行き、初めて泊りがけで神在祭を体験する。それが、今年の参拝をいつにも増して特別なものにしてくれたのです。

しかし神在祭の時期、出雲周辺の宿泊施設はどこも予約でいっぱい。空いているのは一泊5万円もするような高級宿ばかりでした。

そこでエリアを広げて探したところ、大山の方にリーズナブルな宿を見つけることができました。出雲大社からはだいぶ距離が離れていますが、翌日の神在祭に向けて体を休めるには十分です。こうして、初めての宿泊参拝の拠点が決まりました。

神迎祭で感じた厳かな空気 ― 特別な時間の体験

これまで何年も神在祭に通っていましたが、今年は初めて「神迎祭(かみむかえさい)」に参加することができました。

金曜日の夜10時、高知を出発した私たちが最初に目指すのは、出雲大社ではなく稲佐の浜(いなさのはま)です。

神迎祭は旧暦10月10日の夕刻、稲佐の浜で行われます。全国から集まる八百万の神々を、海からお迎えする神事です。この日、稲佐の浜には多くの参拝者が集まり、神事の始まりを静かに待っていました。

すでに陽は沈み、夜の空気の中で浜辺の照明が落とされると、あたりは静寂に包まれました。暗闇の中で祝詞が響き渡り、厳かな空気が浜全体を満たしていきます。
ふと空を見上げると、驚くほど美しい星空が広がっていました。都会では決して見ることのできない満天の星。一筋の流れ星が夜空を横切り、おぉー、という感嘆の声が上がります。神様をお迎えする瞬間に見た流れ星は、まるで神々の到来を告げる天からの合図のようでした。

神事では、龍蛇神さんを先頭に、神々がこの地へと降り立ちます。神様は白い布で覆い隠され、その姿が直接見えないよう大切に守られています。

神事を見守っていた中で地元の方がそっと教えてくださったのですが、昔は、稲佐の浜から練り歩いて本殿まで向かっていたのだそうです。しかしコロナ禍以降、参拝者が集団で移動することが懸念され、現在は車で移動する形に変わったとのことでした。

神様が来るまで車で移動するということに少し不思議さを感じながらも、形は変わっても、神様をお迎えする心は変わらず受け継がれているのだと感じました。

神事は思いのほか速やかに進み、午後8時には終了しました。短い時間ではありましたが、この特別な瞬間に立ち会えたことは、何にも代えがたい体験でした。

稲佐の浜
稲佐の浜
神迎祭の様子
神迎祭の様子

2日目 – 神在祭でいただいた「神気」

大山のホテルで一夜を過ごした翌朝、私たちは午前4時に再び出雲大社へ向けて出発しました。神在祭二日目の朝は、多くの参拝者で混雑することが予想されます。

出雲大社に到着したのは午前6時10分。まだ夜の空気が残る時間帯でしたが、駐車場はすでに満車状態。なんとか空きを見つけて車を停めることができました。

素鵞社(そがのやしろ)ではすでに長い行列ができており、お砂をいただくまでに約1時間並びました。それでも参拝者の皆さんは静かに、辛抱強く順番を待っていました。

出雲大社の大きな特徴の一つが、社殿は南向きでありながら、御神座が西向きである点です。この西側にお賽銭箱があり、多くの人がここで手を合わせます。ここは特に「神気が強い場所」として知られています。

やがて東の空が白み、朝日が境内を照らし始めました。その瞬間、拝殿は言葉を失うほど美しく輝き、私は思わずスマホのカメラを構えました。

ここに立っているだけで、体の内側から力が満ちてくるような感覚。
まさに「パワーがチャージされる」という表現がふさわしい体験でした。

早朝から集まる人々の真摯な姿勢、静かに手を合わせる横顔。目に見えないけれど確かに存在する、特別な空気が境内には流れていました。

全国の神々が一堂に会する神在祭は、私にとって「まとめて事前挨拶ができる貴重な機会」でもあります。
「またあなたの土地を訪ねるかもしれません。そのときはどうぞよろしくお願いします」――そんな想いを込めて手を合わせました。

朝日に照らされた出雲大社で過ごした時間は、一年分の疲れを癒し、新たな活力を与えてくれる、かけがえのないひとときでした。

朝日が指す御神座
朝日が指す御神座
陽光の下の御神座
陽光の下の御神座

出雲の食文化と人とのご縁 ― 磯のり蕎麦との出会い

今回は泊りがけの参拝となったことで、これまでになく、出雲の食や雰囲気をじっくり味わう時間がありました。

参道沿いには地元食材を使った出店が並び、つきたてのお餅やしじみ汁、クラフトビールなどを楽しみました。時間に余裕がある旅だからこそ味わえる楽しみです。

旅行前、会社の社員から「毎年神在祭に行って、必ず食べるお蕎麦がある」と聞いていました。半信半疑ながらも、その店を訪ねることにしました。

店名は「出雲そば 菊二郎」。運ばれてきた一杯は、器が見えないほど磯のりが山盛りで、想像をはるかに超えるものでした。

ふわっと軽い磯のりと、濃いめのつゆ、細めの出雲蕎麦。その三つが驚くほど調和し、今まで味わったことのない一杯でした。

「毎年通う理由がわかった」――心からそう思いました。人との何気ない会話が、こんな素晴らしい出会いをもたらしてくれたのです。

神在祭は恋愛だけでなく、人・場所・食など、あらゆる「ご縁」を結ぶ神事なのだと、改めて実感しました。

磯のりそば
磯のりそば

参拝がもたらす心の整え ― 仕事と人生に向き合う時間

製造業の管理職として多忙な日々を送る中で、私が毎年出雲への参拝を欠かさないのには理由があります。それは、この旅が完全なON/OFFの切り替えになるからです。

深夜のドライブと神様と向き合う時間は、仕事から物理的にも精神的にも距離を置く時間です。この区切りがあるからこそ、仕事に戻ったときの集中力がまったく違います。

参拝とは、単なる「お願い事」ではなく、本質的に大切なものとつながる時間なのだと思います。数字には表れない人の想い、信頼関係、文化や風土――そうしたものに目を向ける感性を、この時間が育ててくれているのです。

忙しさの中でこそ立ち止まる勇気を持つこと。
神在祭が教えてくれたこの気づきを胸に、また新しい一年を歩んでいきたいと思います。